東京高等裁判所 昭和53年(ラ)900号 決定 1979年8月24日
抗告人
池田新一
右代理人
蒔田太郎
同
坂入高雄
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。昭和五三年七月二一日の関係人集会で可決された更生会社株式会社酒悦(以下「本件更生会社」という。)の更生計画案は不認可とする。」との決定を求めるというにあ<る。>
二<前略>
2 抗告理由七、八項について。
本件更生計画において、株主の権利の変更として、同計画認可決定前の株式(額面一株金五〇円の記名株式二〇〇万株、名義人は本件会社更生手続開始申立当時代表取締役であつた堀江康子及びその子で取締役であつた堀江宣行、堀江秀治の三名である。)のすべてを無償で消却し、資本金一億円を減資することとされていることは所論のとおりである。
しかしながら、会社更生法二二八条一項は、更生担保権を第一順位とし、株主の有する権利を最下位として、その間に権利の段階的優先順位を定め、更生計画においては、右順位を考慮して、計画の条件に公正、衡平な差等を設けなければならない旨規定しており、右規定からすれば、株主の権利を一〇〇パーセント無償で消却することがそもそも許されないものと解すべき理由はない。そして、記録によれば、本件更生会社は、本件会社更生手続開始時における総資産から総負債を差し引くと、実に金三一億円余の債務超過の状態にあることが認められ、前記のれん、商標権の価値を考慮に入れても、破産法所定の破産原因がある場合に該当することは明らかであつて、前記株式の価値はほとんど無価値に等しいものと解されること、本件更生計画は、株主より先順位にある一般更生債権について平均70.92パーセント、劣後的更生債権について一〇〇パーセントの債務免除をうけること等を内容とするものであることなどを考えるときは、本件更生計画においては、旧来の株式二〇〇万株全部を無償で消却するものとすることもやむをえないところであつて、これをもつて、会社更生法二二八条一項の要求する公正、衡平な差等の設定という要件に反するものとすることはできないというべきである。会社更生手続の目的が将来に向つて会社の維持更生を図ることにあり、本件においても、会社経営を継続しつつ更生計画を遂行することによつて、前記株式の価値が将来回復することがありうるとしても、本件更生計画における他の権利者の権利変更条項と対比すれば、右の点は、前記判断を左右する理由たりえないことが明らかである。<以下、省略>
(小林信次 鈴木弘 河本誠之)
控告理由<省略>